筋筋膜性疼痛症候群(MPS) 研究会では2012年11月10日 土曜日、11日 日曜日の両日、新大阪にて第10回 学術集会を開催しました。
今回は学術集会の総合テーマを『MPSの診断から治療へ』として、前回までに比べて、より治療に近い部分をテーマに議論することを目的としました。
本学術集会の最初の発表は、本学術集会の運営に多大なるご協力をいただいているビタカイン製薬様からの薬事案内です。
今回の発表では、ネオビタカイン注(有効成分として、ジブカイン塩酸塩、サリチル酸ナトリウムおよび臭化カルシウムを配合)がトリガーポイント注射に有用な理由として、ジブカイン塩酸塩の効力をサリチル酸ナトリウムと臭化カルシウムが増強すること、また、トリガーポイントに炎症的側面があるという報告とサリチル酸ナトリウムを結びつけて、詳細な説明がありました。
最初の会員プレゼンテーションは山下クリニック 院長 山下徳次郎 先生による発表です。
TP治療の際、TPへの鍼刺激により関連痛領域にみられる関連圧痛が消失するという現象が観察されるという点に着目し、この発表では、一般に活動性TPの検索の指標とされる症状の再現や関連痛の誘発に比べ、関連圧痛の消失の出現頻度が2倍近く高いという調査結果を提示するとともに、この現象が活動性TPの検索の指標となり得るかについて考察が行われました。
今回の学術講演は『慢性痛の薬物治療』と題して、群馬大学 大学院 医学系研究科 脳神経病態制御学講座 麻酔科神経科学 小幡英章 准教授 より、ご講演をいただきました。
この講演では、慢性痛として人間が痛みを感じるメカニズムの最新研究状況、疼痛治療に使われる薬物の作用と、実際に投薬した場合の神経伝達物質の動きの研究結果などを講演していただきました。
筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の治療手段として、薬物治療は一つの重要な治療方法の一つになっており、これらの研究の発展はMPSの治療精度の向上に繋がる物として非常に期待が持てる状態である事がわかりました。
尚、この講演は日本整形外科学会教育研修会の承認を受けて、専門医資格継続単位を1単位を取得できる教育研修講演として行われました。
続く会員プレゼンテーションは小林只先生による最新の研究現状報告です。
現在小林先生は「可視化」をキーワードに、筋痛症の病態解明及び治療方法の開発のために、「解剖」、「機能」、「治療」といった多様な視点からの研究を行なっています。
具体的には、(1)筋硬結の超音波可視化、(2)トリガーポイントが形成されやすい部位の同定および超音波可視化、(3)筋繊維運動の超音波可視化、(4)筋膜間注入法(スキマブロック)の治療効果検討-二重盲検化ランダム比較試験-、など複数の研究機関と共同研究を行われています。
この発表では、研究の全体像およびそれぞれの研究の非常に興味深い最新状況の報告が行われました。
一日目最後のプレゼンテーションは当会会長 木村ペインクリニック 院長 木村裕明 先生によるMPSに対する新しい治療方法に関するプレゼンテーションです。
今回は本年6月に木村先生から発表のあった新しい治療方法である筋膜間注入法(スキマブロック)について更に研究を重ねた結果の発表がありました。
従来は主に局所麻酔薬による治療方法でした。最近では、生理食塩水やその他の液体による治療方法の有用性・安全性などを現在検討・研究しているという内容が発表されました。
二日目の初回のプレゼンテーションは佐々木整形外科 院長 佐々木哲也 先生による筋への針刺激効果を改めて証明、考察をした結果の発表です。
これは伝統医療である針治療において治療後に、痛みの軽減だけではなく、治療部位に「力が入るようになる」 という事実について証明をして、そのメカニズムを考察したものです。
続くプレゼンテーションは、加茂整形外科医院 院長 加茂淳 先生による慢性痛症に関する薬の発表です。
これは現在までに判明している痛みのメカニズムを改めて認識をして、そのメカニズムに対してどのような薬をどのように使用するのが、最も効果が発揮できるか?などの検討結果を発表したものです。
続く会員プレゼンテーションは小林只先生による慢性痛への介入方法に関する発表です。
今回は、慢性痛の治療方法として、「如何にして痛みの悪循環を断ち切るか?」、「幸せが目的、除痛は手段、痛くても幸せな人が大勢いる」という点に着目をして、資源も人材も時間も十分にない環境(田舎、開業医)でも現実的に実施可能な方法(慢性痛に移行するリスク評価としてのイエローフラッグサインを用いた認知行動療法、リハビリスタッフがいなくても多忙な外来で非専門医でもできる1分運動療法など)を概説し、「局所治療技術の研磨はもちろん重要であるが、局所療法一辺倒ではない治療家の育成」を期待した発表が行われました。
今回最後の会員プレゼンテーションは、こばし鍼灸院 院長 小橋正枝 先生によるプレゼンテーションです。
本プレゼンテーションは鍼灸師の先生による初のプレゼンテーションとなります。
この発表の中では鍼治療にも複数の種類があり、その中で小橋先生が実践されている掃骨鍼法の特長などの説明がありました。
プレゼンテーションの実技勉強会として、会場で実際に掃骨鍼法による鍼治療を行い、会員の間で鍼を硬結に刺した際の感触、その効果等を確認し合いました。
鍼灸師の先生以外は鍼治療を普段体験する事が難しく、多くの先生方が非常に興味深く掃骨鍼法を確認されていました。
今回の学術集会では、『MPSの診断から治療へ』というテーマにも基づき、色々な治療方法についてさまざまな議論、情報交換を行う事ができました。
今後も本研究会を通して、今回のようにより深い情報交換を行うことにより、筋筋膜性疼痛症候群(MPS)のより詳細な原因、症状、治療方法の研究に寄与してゆく所存です。
ご多忙の中ご講演をいただきました 群馬大学 小幡英章 准助教、運営にご協力をいただいたビタカイン製薬様を始めとする、全ての関係者の方々へ、この場を使い感謝の意を表させていただきます。
筋筋膜性疼痛症候群(MPS) 研究会では、今回のような学術集会を始めとする場で痛み、筋筋膜性疼痛症候群に対する理解を深め、治療技術の発展の為、ともに研究を行う治療者、研究者を募集しています。詳細は入会についてを参照願います。
なお、本学術集会の内容は、会員は会員コミュニティページより動画で視聴できます。