筋筋膜性疼痛症候群(MPS) 研究会では2011年11月12日 土曜日、13日 日曜日の両日、新大阪にて第8回 学術集会を開催しました。
今回は学術集会の総合テーマを『MPS における基礎と臨床の融合をめざして』として、基礎医学と臨床医学の両面からアプローチをすることを目的としました。
学術集会の初めは、ビタカイン製薬 阿部真博 氏より「がん患者の筋・筋膜性疼痛に対するトリガーポイント療法の調査」に関する報告がありました。
これは、がん患者の「がんによる痛み」とは別に長期臥床などが原因でおきる筋緊張の痛みに対して、同社のネオビタカイン注を用いたトリガーポイントブロック療法を実施した際の調査報告です。
(出典) 癌と化学療法 ; 38 (10) P1659-1665 ; 2011
続く会員プレゼンテーションは小林只先生による「エラストグラフィー超音波診断装置によるMPS可視化への挑戦」です。
エラストグラフィは、対象組織の硬さを画像化する事ができる装置です。今回はこの装置と18Hz高周波体表プローブを用いて筋硬結、トリガーポイントを可視化する研究成果の発表がありました。
筋硬結、トリガーポイントの可視化が進むことにより、筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の診断・治療技術が大幅に向上することが期待されています。
また、本発表は平成23年11月23日 中部大学にて 日・デンマーク共同研究 ‘筋・筋膜性疼痛のトランスレーショナル研究 ―動物における基礎研究からヒトにおける実験的及び臨床研究―’のセミナーにおいても発表されました。
今回の特別講演は『筋・筋膜性疼痛症候群に関する基礎的研究の現状』と題して、明治国際医療大学 川喜田 健司 教授より、ご講演をいただきました。
この講演では「筋・筋膜性疼痛症候群の歴史」、「トリガーポイントの特徴」、「トリガーポイントの成因における各諸説とその検証」、「実験的トリガーポイントモデルの作成法」、「ツボとトリガーポイントの関連」など、基礎的研究の歴史から最新状況まで講演していただきました。
この講演を通して、改めて筋・筋膜性疼痛症候群の歴史から現在までの研究の経緯、現在行われている基礎医学研究の状況などを理解する事ができました。今後、基礎医学研究において筋筋膜性疼痛症候群(MPS) の更なる解明を期待をする所存です。
尚、この講演は日本整形外科学会教育研修会の承認を受けて、専門医資格継続単位を1単位を取得できる教育研修講演として行われました。
二日目の最初のプレゼンテーションは、山下クリニック 院長 山下徳次郎 先生による「MPSの歴史から学ぶこと」です。
このプレゼンテーションでは、まず、MPSが何故ほかの疾患に誤診されるようになったのかについて歴史的経緯を振り返りながら推考がありました。
次に、日本でトリガーポイント注射が保険診療として認可された経緯や、その当時トリガーポイント注射がどのように理解されていたかについて振り返り、MPSの治療としての本来のトリガーポイント注射との相違点について指摘がありました。
そしてこれらを踏まえたうえで、MPSの周知活動をどのように行うべきかについて提案が行なわれました。
続くプレゼンテーションは、増田医院 院長 増田 和人 先生による「MPSが原因と思われる肛門痛に対するTPBについて」です。
肛門痛があり、その原因として肛門付近筋肉の筋筋膜性疼痛症候群(MPS)が疑われる患者さんに対して、トリガーポイントブロックなど治療を行った際の経過、考察などの発表がありました。
二日目のメインセッションとしてシンポジウムを行いました。
テーマを「MPSの治療について考える」として、具体的には、MPSの各治療法に関して、MPSの病態をどのように改善していくのかという作用機序や、各々メリット・デメリットを踏まえた上で、各治療法をどのように組み合わせていくのがベターであるかということを追求することを目的としました。
進め方は、各シンポジストが、日頃行なっている筋筋膜性疼痛症候群(MPS)治療の概略について紹介した後、各自に割り当てられた治療法について、MPSの病態をどのように改善していくのかという作用機序や、メリット・デメリットについて発表し、その後各治療法について質疑・討論を行ない、望ましい治療の在り方(手技や組み合わせなど)について皆で考える形で進められました。
最初にシンポジスト4名から筋筋膜性疼痛症候群(MPS)治療について発表がありました。
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その後、質疑応答・討論が行われましたが、予定の時間を1時間延長しても足りない位の議論が行われ、最終的に非常に有用な情報交換をすることができました。
今回の学術集会では、『MPS における基礎と臨床の融合をめざして』というテーマにも基づき、基礎医学と臨床医学の両面からさまざまな議論、情報交換を行う事ができました。
今後も本研究会を通して、今回のような多面的な情報交換を行うことにより、筋筋膜性疼痛症候群(MPS)のより詳細な原因、症状、治療方法の研究に寄与してゆく所存です。
ご多忙の中ご講演をいただきました 川喜田 健司 教授、シンポジウムの司会を行っていただいたトリガーポイント研究所 佐藤恒士 所長、運営にご協力をいただいたビタカイン製薬様を始めとする、全ての関係者の方々へ、この場を使い感謝の意を表させていただきます。
筋筋膜性疼痛症候群(MPS) 研究会では、今回のような学術集会を始めとする場で痛み、筋筋膜性疼痛症候群に対する理解を深め、治療技術の発展の為、ともに研究を行う医師を募集しています。詳細は入会についてを参照願います。