筋膜性疼痛症候群(MPS) 研究会では2017年10月14日土曜日、15日日曜日に福岡市 福岡県歯科医師会にて第20回 学術集会を開催しました。
今回は発足丸10年目の節目を迎える記念すべき学術集会で、初めての本州以外の開催となりました。
今回の学術集会は、メインテーマを『頭頸部から胸腹部のFasciaに対する“発痛源評価の標準化”と治療技術交流による多職種連携を目指して』として開催されました。
一日目の司会は弘前大学医学部附属病院 総合診療部 小林 只 先生となります。
一日目最初のセッションは弘前大学医学部附属病院 総合診療部 小林 只 先生から、2017年5月30日施行された改正個人情報保護法の解説がありました。
この中では、従来は5000件以上の個人情報を所有する者が対象だった法律が、1件以上の個人情報を所有する者が対象になり、大多数の当会会員も十分に考慮をすべき法律になった事、MPS研究会として、「Fascia、Myofascia,、リリース/Release、癒着 Adhesion/ Cohesionなど」の用語定義などが改めて紹介されました。
今回の基調講演は顎関節症クリニックやまだ歯科 院長 山田 貴志 先生と地域疼痛ケア協会 会長, エムツー訪問看護ステーション仙台長町 山崎瞬 先生による『顔面口腔の慢性疼痛に対する歯科とリハビリテーションの連携』です。
この基調講演の中では山田先生より頭頚部の痛みには多職種の連携が必要という概念で、頭頚部の痛みを総合的に見る専門家は限られている事、線維筋痛症と顎関節症の関係、翼突筋へのFasciaリリースの症例紹介、新たな器具であるソマニクス オーラルの紹介などがありました。
その後、山崎先生より顔面口腔疼痛とその原因筋肉の関係の説明、顔面口腔疼痛と全身痛の関係、顎関節周囲筋の触診方法、刺さない鍼「ソマセプトミオ」を使用した施術の説明、歯科医師と理学療法士の連携の手法など講演がありました。
講演の後は、会場にいた頭頚部に痛みを持つ会員を被験者として、実際にソマニキス・オーラルを用いて翼突筋へのFasciaリリースであるマイクロコーン翼突筋リリース療法を行い、その効果の確認が行われ、被験者はもちろん会場にいた参加者もその効果に驚いていました。
続く特別講演は畿央大学健康科学部理学療法学科教授 今北 英高先生(理学療法士・保健学博士)による講演です。
この講演では「筋膜を含むFasciaに対する生理学的エビデンス 文献レビューからラットに対する基礎研究まで-」と題して、筋骨格筋の特性・機能、Fascia、Myofasciaの構造、痛みを感じるメカニズムなど生理学の知識、ラットを用いた癒着とMyofasciaに関する研究報告など、非常に興味深い話を聞くことができました。
二日目の司会は顎関節症クリニックやまだ歯科 院長 山田 貴志 先生となります。
続いて以下4件の会員プレゼンテーションがありました。
最初の会員プレゼンテーションは、近江整形外科リハビリテーション科 理学療法士 平山和哉 先生による「青森県津軽地方におけるエコー・fasciaを共通言語とした多職種連携・普及の試み」です。
この発表の中では、青森県におけるエコーガイド下注射施設の状況、自院(整形外科医院)にエコーが導入された経緯、エコーを使った医師・理学療法士らによる多職種連携の事例などを通して、治療有効性のみならず、多職種間のコミュニケーションツールとしてもエコーが非常に有用である事の説明がありました。
続く会員プレゼンテーションは、 函館脳神経外科病院 麻酔科医 石田岳 先生による「徒手及び細胞外液によるFasciaリリースが奏功した術後脛骨神経障害の一症例の検討」です。
この発表の中では、人工膝関節形成術(TKA)術後脛骨神経障害の症例において、徒手及び細胞外液によるFasciaリリースが患者の症状改善とADL向上に有効であった事やその考察が報告されました。
続く会員プレゼンテーションは、初の海外在住会員によるプレゼンテーション、 韓国 NANOORI 病院 リハビリテーション専門医 Jeong Hyojun先生による「韓国のMPS治療:エコーと体外衝撃波(ESWT)を用いるMPSの対応」です。
この発表の中では、韓国におけるMPS治療の現状の概況や最新の治療方法としてエコーと体外衝撃波(ESWT)を用いるMPSの対応など、普段知ることのできない興味深い話がありました。
続く会員プレゼンテーションは、 永野整形外科クリニック 院長 整形外科医 永野龍生先生による「C8神経根周囲Fasciaリリースが著効した症例」です。
この発表の中では、交通事故で左頚部から左肩を受傷し他院の加療で痛みの症状が固定した患者に対して、C8神経根周囲にHydrorelease(生理食塩水注射によるエコーガイド下Fasciaリリース)を実施して症状が改善した症例の報告がありました。
続いて、今回のメインテーマである『頭頸部から胸腹部のFasciaに対する“発痛源評価の標準化”と治療技術交流による多職種連携を目指して』に関する指定演題です。
最初の発表は、名古屋徳州会病院リハビリテーション科 理学療法士 木村陽志先生による「開頭術後の開口障害に対する評価とリハビリテーション」です。
この発表の中では、側頭開頭術による側頭筋損傷で開口痛・開口障害を持つ患者に対して、早期から理学療法による治療を行う事により開口痛・開口障害を軽減した症例の発表がありました。
最後の症例発表は、木村ペインクリニック 院長 木村 裕明 先生による「頭頸部から胸腹部に対する超音波ガイド下Fassciaリリース」です。
エコーガイド下での頸動脈周囲、顎二腹筋、肩甲舌骨筋、外側翼突筋、内側翼突筋、斜角筋など頭頸部から胸腹部の有効なFasciaリリースの手法やその効果についての報告がありました。
また、新たな取り組みとして、スペクトラムアナライザ、オシロスコープ等を用いて、Fasciaの電気活動に関する研究を進めている事の報告がありました。
二日目の最後のセッションは「頭頸部から胸腹部のFasciaに対する発痛源評価(臨床的触診を含む)&エコー実技」となります
この勉強会では、実技に入る前の座学として、弘前大学医学部附属病院 総合診療部 小林 只 先生、地域疼痛ケア協会 会長, エムツー訪問看護ステーション仙台長町 山崎瞬 先生、よしむら鍼灸治療院 院長・日本超音波鍼灸協会 会長 吉村亮次先生より講義がありました。
今回の学術集会では、メインテーマ『頭頸部から胸腹部のFasciaに対する“発痛源評価の標準化”と治療技術交流による多職種連携を目指して』の通り、頭頸部から胸腹部に着目した発痛源評価に関する標準化について、職種を越えて深い議論をすることができました。
今後も本研究会を通して、今回のようにより深い情報交換を行うことにより、筋膜性疼痛症候群(MPS)のより詳細な原因、症状、治療方法の研究に寄与してゆく所存です。
本学術集会の運営にご協力をいただいたMSKメディカルサポート株式会社様、東洋レヂン株式会社様、東芝メディカルシステムズ株式会社様、コニカミノルタ株式会社様、日本シグマックス株式会社様、セイリン株式会社様、地域疼痛ケア協会様を始めとする、全ての関係者の方々へ、この場を使い感謝の意を表させていただきます。
筋膜性疼痛症候群(MPS) 研究会では、今回のような学術集会を始めとする場で痛み、筋膜性疼痛症候群に対する理解を深め、治療技術の発展の為、ともに研究を行う治療者、研究者を募集しています。詳細は「入会について」を参照願います。